種蒔(ま)きがはじまる前、人々は連れだって山へ行き、その日一日を山で過ごす。帰りには山の土産に花を採って来て家に飾る。そして翌日は、
「カッコウが鳴いているから種蒔きだ」
などと言いながら、いっせいに畑へ出ていくのだった。
山里の山口(やまぐち)でも人々は種蒔きに忙しかった。木々の間に見え隠れする山の畑で、今年はきっと豊作だ、などと言い合っては気候のよいことを喜び合っていた。
その中に、一人の美しい乙女がいた。乙女は人々の明るい声を開きながら明るい青い空を仰ぎ見た。その額は、今年の豊作が信じられる思いにあふれていた。
「だってカッコウの声が、本当に軽やかだもの」
草を刈る手もついはずんでくる。
乙女には、松代(まつしろ)に愛を語り合う若者がいた。山口と松代の間にはいくつもの山がある。太郎山(たろうやま)、大峰(おおみね)、五里峰(ごりがみね)、鏡台山(きょうだいやま)、妻女山(さいじょやま)…。 いつの頃からか、乙女は夜になると、そっと家を抜け出して、この山々を越えて若者のもとへ通うようになっていた。太郎山も大峰も、険しい山ばかりで、松代までの道は、決して楽ではない。だが乙女にとっては少しも険しい山道ではなかった。若者のもとまで続く、愛(いと)しい道だったから。
若者の家に着くと、二人は乙女が両の手に握って持ってきた、あたたかな餅を食べるのが常であった。この日も若者は、乙女のさし出した餅を、おいしそうに食へた。あたたかい餅に満足して、若者はふと乙女にたずねた。
「山を越えて来るのに、いつも搗(つ)きたての餅のようだなあ。どうやって、こんなあたたかい餅を持って来るんだい」
乙女はうれしそうにうなずき、
「家を出る時にね、両手に米を握って来るんです。ここに着く時には餅になっているわ」
と言ってほほえんだ。
若者はびっくりして乙女を見た。米を手で握るだけで餅ができるだろうか。
「だって餅になるもの。山を越える道々、おまえさまのことばかり考えてるから、力が入るのかもしれない」
乙女は恥じらいながらも無邪気に笑った。乙女の笑顔とは反対に、若者の顔は青ざめていった。
いつもは乙女がやって来るのがうれしくて、さし出されるままに餅を食べていたけれど、なにか不安だ。乙女は山口からここまで、本当にあの険しい山道をやって来たのだろうか。妻女山や鏡台山など、昼でも歩きにくい山道を、女が一人で歩いて来れるだろうか。ここにいるのは、あの愛らしい山口の乙女なのだろうか。そこまで考えた時、若者はぞっとするものを感じた。
「もう帰っておくれ」
若者の急なかわりように、乙女はとまどった。
「なぜ? 今日の餅がまずかったからかね」
乙女は、若者がなにを考えているかわからなかった。なにを言っても答えない若者を前に、乙女は泣き出してしまった。
「おら、おまえさまが好きなだけなのに‥‥」
乙女が帰ったあとも、若者の心は乱れていた。こんなことではいけない。あれは魔物だ。本当のあの山口の乙女はどうしてしまったのだろう。魔物が乙女を隠してしまったにちがいない。早く魔物を退治しなければ。
次の夜、若者は山道を登った。太郎山と大峰の間に、刀刃(かたなのは)と呼ばれる険しい道がある。山口から松代へ来るには、必ずここを通らねばならない。若者は魔物を殺せるのはここだと考えて岩陰に隠れた。
足音がして、乙女があらわれた。乙女は両手を握り息をはずませている。若者の胸が高鳴った。そして、岩陰から飛び出し叫んだ。
「やい、化け物め!」
若者は乙女をつかまえると、刀刃から崖下へ突き落した。声もなく乙女は深い谷底へと落ちていった。
翌年の春、山口の人々は山遊びに行って、大峰と太郎山の谷が赤ツツジで埋まつているのを見た。鮮血のように赤いツツジだった。
これは、乙女の鮮血がほとばしって、ツツジの花を赤く染めたにちがいない。人々は口々にそうささやき合った。真っ赤なツツジの花は、次の年も、その次の年も、春になると山々を染めた。
毎夜十時頃、上田の町から山口の方を見ると一つの火の玉が見えるという。この一つ火は、乙女が刀刃から谷に散って短い一生を終えた時から、あらわれるようになったのだと伝えられている。
在播种的时节来临前,人们会相携到山上去,在山里度过那一整天。回家时采一束山里特产的花来装饰家里。然后在第二天说着:
“杜鹃鸟叫了该开始播种了”
之类的话,一齐下地播种。
位于山里的山口也能看到人们忙于播种的身影。山腰上的田地在郁郁葱葱的树丛中时隐时现,在田间劳作的人们互相说着今年一定有好收成之类的话,互相为适合农作物生长的好天气而欣喜。
在这些人当中,有一个美丽的女孩。天空中回荡着人们明朗的声音,女孩仰望着明亮的蓝天,脸上洋溢着坚信今年一定会有好收成的神情。
“不过杜鹃的声音,还真是轻快啊”
一边想着,女孩割草的手也不知不觉间跳跃起来。
女孩在松代有一个已互诉衷肠的年轻爱人。从山口到松代之间相隔好几座大山。太郎山、大峰山、五里峰、鏡台山和妻女山…。不知从什么时候开始,女孩总会在天黑后趁着夜色偷偷跑出家,越过这些大山与年轻人相会。无论是太郎山还是大峰山,都非常险峻,走山路到松代决不是一件容易的事情。但女孩的眼里却没有什么险峻的山路,对她来说,能把她带到爱人那儿的路都是可爱的。
到达年轻人家后,两人常常一起吃女孩握在手里带过来的热年糕。有一天,年轻人像往常一样津津有味地吃了女孩递给他年糕。心满意足地享用了热腾腾的美味年糕后,年轻人突然问女孩:
“虽然穿过了重重的山峰,这年糕总好像是刚出炉似的呢。你是怎么把这热腾腾的年糕带过来的呢”
女孩高兴地点着头,微笑着回答道:
“我从家里出来时两手握着米,到这儿时就变成年糕啦。”
年轻人吃惊地看着女孩问道:怎么可能只是把米握在手里就变成了年糕呢。
“但是真的变成年糕了哟。可能是在穿过山路时,我一直想着您,就有力量注入手里了吧”
女孩羞涩而无邪地笑着。与之相对,年轻人的脸却开始发青了。
每次女孩来时我都很高兴,总是吃下她递给我的年糕,但总觉得隐隐约约有些不安。从山口到这里,女孩真的是走那条险峻的山路的吗?妻女山、鏡台山之类的山路,都是即使大白天都很难走的,女孩真的是一个人走过来的吗?站在这里的,真的是山口那个可爱女孩吗?想到这里,年轻人已经有些毛骨悚然的感觉。
“你快回去吧。”
年轻人态度的剧变让女孩十分困惑:
“为什么呢?今天的年糕不好吃吗?”
女孩完全搞不懂年轻人的心思。终于在沉默着不肯回答的年轻人面前,哭着离开了。
“我是喜欢您的呀‥‥”
女孩回去后,年轻人心乱如麻:不会有这样的事情的。那一定是妖怪在作怪。真正的山口女孩到底怎么了呢,一定是有妖怪附在女孩的身上。我一定要赶快赶走妖怪。
第二天夜里,年轻人登上的山路。那是在太郎山和大峰山之间名为刀刃的险峻山路,也是从山口到松代的必经之路。年轻人觉得这里是杀死妖怪的最佳地点,因此躲在了岩石背面。
随着脚步声响起,紧握着双手轻喘着气的女孩出现了。年轻人的心一下子咚咚地猛跳起来,从岩石背后飞奔出来大叫道:
“妖怪,受死吧!
一把揪住女孩,从刀刃推下了悬崖。女孩无声无息地掉下了深深的谷底。
第二年开春,山口的人们又像往年一样到山上游玩时,在大峰山和太郎山的山谷间发现了深埋于谷底的红色杜鹃花。这些杜鹃花拥有像血一样鲜红的颜色。
一定是女孩的鲜血溅到杜鹃花上,把杜鹃花染红的。人们私下里交口相传。到了下一年,下下一年,一到春天,这些鲜红的杜鹃花就开始染红群山。
而每到夜里十点左右,从上田向山口的方向眺望,便可以看到一团燃烧的火球。相传这团火球正是从女孩在刀刃落下悬崖结束了短暂的一生时出现的。
