岳に咲く高山植物のなかに、大桜草(オオサクラソウ)とよぶ花があることは早くから知られている。七月ごろ紅紫色の可憐な花をつけるのだが、そのむかし、花は雪のように純白であったという。
いつの時代かはわからないが、白馬岳の東のふもと、今の小谷村(おたりむら)に豪壮な屋敷をかまえて栄えた長者がいた。
この長者のなによりの自慢は一人娘の手巻(たまき)で、美しい雪肌とつややかな黒髪と、さらに愛くるしい黒目とを持ち、十六、七にもなると、遠くから噂を聞いて、
「どうか、わがせがれをば手巻姫の婿に」
と訪れてくる者が、ひきもきらなかった。
むろん長老はそのつど、わしの娘の相手には不足じゃとばかり頭を振って取りあわなかった。でも、娘には娘の心がある。白馬岳に春がめぐってき、ふもとの村々もすっかり新緑に包まれたころ、手巻は小姓姿のやさしげな若者と人目を忍ぶ仲になっていた。
その若者は残雪の嶺の向こうへ日が沈んであたりに夕靄がひろがると、どこからともなく、すいと現われた。ふたりは岳樺(だけかんば)の林のなかで逢瀬(おうせ)重ねたが、不思議なことに若者は自分の家も名もあかさず、ただ、
「いまは言えぬが、いつかわかるだ」
とだけ答えるのであった。
しかし、いくら人目を忍ぶつもりでも、せまい山里ゆえ村人たちが見とがめないはずはない。
「あのお小姓はここらの者でないけん、どこのだれずら?」
「なんでも、白馬岳のほうから下ってきちゃあ、また山へ帰っていくとい」
そんな村人たちの声はほどなく屋敷の下男や下女から長者の耳へ届いた。近ごろ娘のそぶりを不審がっていた長者夫婦は激しく怒り、親にかくれて氏素性も知れぬ男の誘いに乗るとは何事ぞ、すぐ別れるか、さもなくば人をやって男を成敗するとまで迫った。あらたまって責められてみれば是非もない。手巻は、いっそ恋しいと思いながらも涙にくれて、
「はい、お許しください。きっと別れます」
と誓ったのだった。
その翌日のたそがれどきでるある。もう白馬には初夏がきて、山躑躅(やまつつじ)の盛りも過ぎ、石楠花(しゃくなげ)が咲きそろっていた。
娘は重い足どりで、いつもの林へ行くと首うなだれて男に言った。
「おまえさまにはすまないども、ゆえあって毎晩お会いできなくなりました。どうぞ、今夜限りここへはおいでくださいますな」
このことばを聞くなり、小姓姿の若君はさっと顔色を変えた。いや、それはうそだ、自分のほかに男ができて、わしを遠ざけるつもりなのだと思ったにちがいない。こめかみをピクリと震わせるなり、怒りと悲しみのまじった表情で、
「よくも、そんな偽りがいえたもんどぉ。女に裏切りの心があれば、男にも呪いがあるでのう。見ておるがいいだ」
と言って、つめ寄った。
「おらはけっして、裏切りなど……」
手巻は、たもとに額をうずめて泣いた。
だが、そのつぎに異様なものの気配を感じ、顔をあげて若者を見なおすより早く、
「あ、あぁー」
と、うしろへ倒れ伏した。
目の前におったのは、小姓姿の若老などではない。仁王立ちで裂けた口から呪いの炎を吐き散らす、ものすごい山の魔神、大婆王(だいばおう)であった。むかしからふもとの村人たちは、この魔神こそ気短かで荒々しく、狂いだしたら最後、しずめようがないと恐れてきた。
大婆王は、さっと娘を小脇にひっかかえ、黒雲を呼んだ。
稲妻が一閃、雷鳴がとどろくと見るまに、その黒雲へとび移り、白馬岳の頂上めがけてかけあがって行った。
「手巻! 手巻はどこだやぁ」
長者をはじめ、村人たちがかけつけたときは、もう、すべてが終わっていた。つぎの朝、白馬岳が明けて見ると、お花畑にとび散った手巻の血が、あの可憐な花のつぼみを染めていたのである。
この年から純白であった大桜草は紅紫に咲くようになったという。
在生长于高山上的高山植物中,一种名为大樱草的花从很早以前就被人所熟知。每当七月来临大樱草就会开出紫红色的可爱花朵。可相传它的花朵原本是像雪一样纯白色的。
也不知是那个年代的事情,在白马岳东边的山脚,也就是现在的小谷村的位置曾经有一位住着豪宅有权有势的大富翁。
而最令富翁骄傲的是他有一个名叫手卷的女儿,有着像冰雪一样洁白的皮肤和乌黑发亮的头发,特别是一双黑漆漆的眼睛十分惹人怜爱。到了十六七岁的年纪,手卷已经成了远近闻名的大美人。说着:
“让我们家小子成为手卷小姐的夫婿吧。”
之类的话登门求亲的人络绎不绝。
但每次富翁都觉得对方配不上手卷而摇头拒绝了。但,女儿却已到了春心萌动的年纪。当春天的脚步踏进白马岳,山脚下的每个村庄完全笼罩在新绿下时,手卷背着大家悄悄和一个侍从模样的温厚青年相爱了。
那个青年总是在夕阳从积雪的山岭对面落下,暮霭渐渐散开时突然出现在手卷面前。两人在岭上的树林里相会,但让人不可思议的是青年从来都不肯说出自己的姓名和来历,面对手卷的追问,只答道:
“我现在不能说出来,总有一天你会知道的。”
但无论两个人怎样隐秘地相会,在小小的村里也终究瞒不过众人的眼睛。渐渐村里人开始议论起来:
“那小子不是我们这边的人,到底是从哪儿冒出来的呢?”
“不管怎么说,那家伙是从白马岳下来的,快给我回到山里去!”
村里人的风言风语不一会儿工夫就被富翁家的仆人们听到,又传到了富翁耳朵里。富翁夫妇联想起最近女儿的可疑举动不由得勃然大怒:一个女孩家瞒着父母和被一个来历不明的男人所诱惑成何体统!如果不马上和他分开我们就派人去对付那个男人。面对父母的威胁和责骂,手卷虽然还爱着那个青年却也只有流着泪忍痛答应父母:
“知道了,我一定会去和他分手的。请原谅我们。”
第二天的傍晚来临了。白马岳已进入了初夏光景,盛开的映山红已开始凋谢,石楠丛生的花朵开始怒放。
女孩拖着沉重的脚步,来到了每次相会的小树林,低着头对青年说:
“实在是对不起您,因为某些原因我以后再也不能来和您见面了。今晚以后请不要再来这里了吧。”
听了这些话,侍从模样的青年刷得变了脸色,心里想着:“肯定是在骗我!她肯定是喜欢上其他男人了,想要我离她远点才这么说!”悲愤交加使得青年鬓角也微微颤抖起来,他一边说着:
“别在这里假惺惺了!女人变了心,会得到男人的诅咒的。你等着瞧吧。”一边逼近了手卷身边。
“我绝对没有背叛您啊!”
手卷伤心欲绝地用袖口遮脸哭泣着说。
但是,她渐渐觉得空气中有些不对,抬起头看到青年的脸,顿时“啊”地大叫一声晕倒在地。
在她眼前的,已不是那个侍从模样的青年情人。而是一个张牙舞爪口中不断吐出诅咒的火焰的恐怖魔王——大婆王。从很久已经山脚的村民就相传这个魔王性情狂暴,发起怒来会毁灭一切,因而十分害怕他。
大婆王一把把女孩夹在腋下,驾起黑云呼啸而去。
等电闪雷鸣都停止后,村民们看到那朵黑云正向白马岳的山顶上移动。
“手卷!我的手卷去哪儿了呀!”
当富翁和村里人都回过神时,一切都已经风平浪静了。第二天早晨,当晨曦照亮白马岳时,人们发现,在花田里洒落的手卷的鲜血,已将那楚楚可怜的花蕾染红了。
从那时开始原本纯白色的大樱草就开始开紫红色的花了。
