竹取物语

2007-08-05 来源:网络  【 评论:0 收藏
9 かぐや姫の升天
かやうにて、御心を互に慰め给ふほどに、三年ばかりありて、春の初より、かぐや姫月のおもしろう出でたるを见て、常よりも物思ひたるさまなり。ある人の「月の颜见るは忌むこと。」ゝ制しけれども、ともすればひとまには月を见ていみじく泣き给ふ。七月ふみづきのもちの月にいで居て、切に物思へるけしきなり。近く使はるゝ人々、竹取の翁に告げていはく、「かぐや姫例も月をあはれがり给ひけれども、この顷となりてはたゞ事にも侍らざンめり。いみじく思し叹くことあるべし。よく\/见奉らせ给へ。」といふを闻きて、かぐや姫にいふやう、「なでふ心ちすれば、かく物を思ひたるさまにて月を见给ふぞ。うましき世に。」といふ。かぐや姫、「月を见れば世の中こゝろぼそくあはれに侍り。なでふ物をか叹き侍るべき。」といふ。かぐや姫のある所に至りて见れば、なほ物思へるけしきなり。これを见て、「あが佛何事を思ひ给ふぞ。思すらんこと何事ぞ。」といへば、「思ふこともなし。物なん心细く觉ゆる。」といへば、翁、「月な见给ひそ。これを见给へば物思すけしきはあるぞ。」といへば、「いかでか月を见ずにはあらん。」とて、なほ月出づれば、いで居つゝ叹き思へり。夕暗ゆふやみには物思はぬ气色なり。月の程になりぬれば、犹时々はうち叹きなきなどす。是をつかふものども、「犹物思すことあるべし。」とさゝやけど、亲を始めて何事とも知らず。八月はつき十五日もちばかりの月にいで居て、かぐや姫いといたく泣き给ふ。人めも今はつゝみ给はず泣き给ふ。これを见て、亲どもゝ「何事ぞ。」と问ひさわぐ。かぐや姫なく\/いふ、「さき\/も申さんと思ひしかども、『かならず心惑はし给はんものぞ。』と思ひて、今まで过し侍りつるなり。『さのみやは。』とてうち出で侍りぬるぞ。おのが身はこの国の人にもあらず、月の都の人なり。それを昔の契なりけるによりてなん、この世界にはまうで来りける。今は归るべきになりにければ、この月の十五日に、かのもとの国より迎に人々まうでこんず。さらずまかりぬべければ、思し叹かんが悲しきことを、この春より思ひ叹き侍るなり。」といひて、いみじく泣く。翁「こはなでふことをの给ふぞ。竹の中より见つけきこえたりしかど、菜种の大おほきさおはせしを、我丈たち并ぶまで养ひ奉りたる我子を、何人か迎へ闻えん。まさに许さんや。」といひて、「我こそ死なめ。」とて、泣きのゝしることいと堪へがたげなり。かぐや姫のいはく、「月の都の人にて父母ちゝはゝあり。片时の间まとてかの国よりまうでこしかども、かくこの国には数多の年を经ぬるになんありける。かの国の父母の事もおぼえず。こゝにはかく久しく游び闻えてならひ奉れり。いみじからん心地もせず、悲しくのみなんある。されど己が心ならず罢りなんとする。」といひて、诸共にいみじう泣く。つかはるゝ人々も年顷ならひて、立ち别れなんことを、心ばへなどあてやかに美しかりつることを见ならひて、恋しからんことの堪へがたく、汤水も飮まれず、同じ心に叹しがりけり。この事を帝きこしめして、竹取が家に御使つかはさせ给ふ。
御使に竹取いで逢ひて、泣くこと限なし。この事を叹くに、髪も白く腰も屈り目もたゞれにけり。翁今年は五十许なりけれども、「物思には片时になん老おいになりにける。」と见ゆ。御使仰事とて翁にいはく、「いと心苦しく物思ふなるは、诚にか。」と仰せ给ふ。竹取なく\/申す、「このもちになん、月の都よりかぐや姫の迎にまうでくなる。たふとく问はせ给ふ。このもちには人々たまはりて、月の都の人まうで来ば捕へさせん。」と申す。御使かへり参りて、翁のありさま申して、奏しつる事ども申すを闻し召しての给ふ、「一目见给ひし御心にだに忘れ给はぬに、明暮见驯れたるかぐや姫をやりてはいかゞ思ふべき。」かの十五日もちのひ司々に仰せて、勅使には少将高野たかの大国といふ人をさして、六衞のつかさ合せて、二千人の人を竹取が家につかはす。家に罢りて筑地の上に千人、屋の上に千人、家の人々いと多かりけるに合はせて、あける隙もなく守らす。この守る人々も弓矢を带して居り。母屋の内には女どもを番にすゑて守らす。妪涂笼の内にかぐや姫を抱きて居り。翁も涂笼の戸をさして戸口に居り。翁のいはく、「かばかり守る所に、天あめの人にもまけんや。」といひて、屋の上に居をる人々に曰く、「つゆも物空にかけらばふと射杀し给へ。」守る人々のいはく、「かばかりして守る所に、蝙蝠かはほり一つだにあらば、まづ射杀して外にさらさんと思ひ侍る。」といふ。翁これを闻きて、たのもしがり居り。これを闻きてかぐや姫は、「锁し笼めて守り战ふべきしたくみをしたりとも、あの国の人をえ战はぬなり。弓矢して射られじ。かくさしこめてありとも、かの国の人こば皆あきなんとす。相战はんとすとも、かの国の人来なば、猛き心つかふ人よもあらじ。」翁のいふやう、「御おん迎へにこん人をば、长き爪して眼をつかみつぶさん。さが髪をとりてかなぐり落さん。さが尻をかき出でて、こゝらのおほやけ人に见せて耻见せん。」と腹だちをり。かぐや姫いはく、「声高になの给ひそ。屋の上に居る人どもの闻くに、いとまさなし。いますかりつる志どもを、思ひも知らで罢りなんずることの口をしう侍りけり。『长き契のなかりければ、程なく罢りぬべきなンめり。』と思ふが悲しく侍るなり。亲たちのかへりみをいさゝかだに仕う奉らで、罢らん道も安くもあるまじきに、月顷もいで居て、今年ばかりの暇を申しつれど、更に许されぬによりてなんかく思ひ叹き侍る。御心をのみ惑はして去りなんことの、悲しく堪へがたく侍るなり。かの都の人はいとけうらにて、老いもせずなん。思ふこともなく侍るなり。さる所へまからんずるもいみじくも侍らず。老い衰へ给へるさまを见奉らざらんこそ恋しからめ。」といひて泣く。翁、「胸痛きことなしたまひそ。丽しき姿したる使にもさはらじ。」とねたみをり。かゝる程に宵うちすぎて、子の时ばかりに、家のあたり昼のあかさにも过ぎて光りたり。望月のあかさを十合せたるばかりにて、ある人の毛の穴さへ见ゆるほどなり。大空より、人云に乘りておりきて、地つちより五尺ばかりあがりたる程に立ち连ねたり。これを见て、内外うちとなる人の心ども、物におそはるゝやうにて、相战はん心もなかりけり。辛うじて思ひ起して、弓矢をとりたてんとすれども、手に力もなくなりて、痿なえ屈かゞまりたる中うちに、心さかしき者、ねんじて射んとすれども、外ざまへいきければ、あれも战はで、心地たゞしれにしれて守りあへり。立てる人どもは、装束さうぞくの清らなること物にも似ず。飞车とぶくるま一つ具したり。罗盖さしたり。その中に王とおぼしき人、「家に造麿まうでこ。」といふに、猛く思ひつる造麿も、物に醉ひたる心ちしてうつぶしに伏せり。いはく、「汝をさなき人、聊なる功徳を翁つくりけるによりて、汝が助にとて片时の程とて降しゝを、そこらの年顷そこらの金赐ひて、身をかへたるが如くなりにたり。かぐや姫は、罪をつくり给へりければ、かく贱しきおのれが许にしばしおはしつるなり。罪のかぎりはてぬれば、かく迎ふるを、翁は泣き叹く、あたはぬことなり。はや返し奉れ。」といふ。翁答へて申す、「かぐや姫を养ひ奉ること二十年あまりになりぬ。片时との给ふに怪しくなり侍りぬ。また他处ことどころにかぐや姫と申す人ぞおはしますらん。」といふ。「こゝにおはするかぐや姫は、重き病をし给へばえ出でおはしますまじ。」と申せば、その返事はなくて、屋の上に飞车をよせて、「いざかぐや姫、秽き所にいかでか久しくおはせん。」といふ。立て笼めたる所の戸即たゞあきにあきぬ。格子どもゝ人はなくして开きぬ。妪抱きて居たるかぐや姫外とにいでぬ。えとゞむまじければ、たゞさし仰ぎて泣きをり。 竹取心惑ひて泣き伏せる所に寄りて、かぐや姫いふ、「こゝにも心にもあらでかくまかるに、升らんをだに见送り给へ。」といへども、「何しに悲しきに见送り奉らん。我をばいかにせよとて、弃てゝは升り给ふぞ。具して率ておはせね。」と、泣きて伏せれば、御心惑ひぬ。「文を书きおきてまからん。
恋しからんをり\/、とり出でて见给へ。」とて、うち泣きて书くことばは、「この国に生れぬるとならば、叹かせ奉らぬ程まで侍るべきを、侍らで过ぎ别れぬること、返す\〃/本意なくこそ觉え侍れ。脱ぎおく衣きぬをかたみと见给へ。月の出でたらん夜は见おこせ给へ。见すて奉りてまかる空よりもおちぬべき心ちす。」と、かきおく。天人あまびとの中にもたせたる箱あり。天あまの羽衣入れり。又あるは不死の药入れり。ひとりの天人いふ、「壶なる御み药たてまつれ。きたなき所のもの食きこしめしたれば、御心地あしからんものぞ。」とて、持てよりたれば、聊甞め给ひて、少しかたみとて、脱ぎおく衣に包まんとすれば、ある天人つゝませず、御衣みぞをとり出でてきせんとす。その时にかぐや姫「しばし待て。」といひて、「衣着つる人は心ことになるなり。物一言いひおくべき事あり。」といひて文かく。天人「おそし。」と心もとながり给ふ。かぐや姫「物知らぬことなの给ひそ。」とて、いみじく静かにおほやけに御み文奉り给ふ。あわてぬさまなり。「かく数多の人をたまひて留めさせ给へど、许さぬ迎まうできて、とり率て罢りぬれば、口をしく悲しきこと、宫仕つかう奉らずなりぬるも、かくわづらはしき身にて侍れば、心得ずおぼしめしつらめども、心强く承らずなりにしこと、なめげなるものに思し召し止められぬるなん、心にとまり侍りぬる。」とて、
今はとて天のはごろもきるをりぞ君をあはれとおもひいでぬる
とて、壶の药そへて、头中将を呼び寄せて奉らす。中将に天人とりて传ふ。中将とりつれば、ふと天の羽衣うち着せ奉りつれば、翁をいとほし悲しと思しつる事も失せぬ。この衣着つる人は物思もなくなりにければ、车に乘りて百人许天人具して升りぬ。その後翁・妪、血の涙を流して惑へどかひなし。あの书きおきし文を读みて闻かせけれど、「何せんにか命も惜しからん。谁が为にか何事もようもなし。」とて、药もくはず、やがておきもあがらず病みふせり。中将人々引具して归り参りて、かぐや姫をえ战ひ留めずなりぬる事をこま\〃/と奏す。药の壶に御文そへて参らす。展げて御览じて、いたく哀れがらせ给ひて、物もきこしめさず、御游等などもなかりけり。大臣・上达部かんだちめを召して、「何いづれの山か天に近き。」ととはせ给ふに、或人奏す、「骏河の国にある山なん、この都も近く天も近く侍る。」と奏す。是をきかせ给ひて、
あふことも涙にうかぶわが身にはしなぬくすりも何にかはせむ
かの奉る不死の药の壶に、御文具して御使に赐はす。勅使には调岩笠つきのいはかさといふ人を召して、骏河の国にあンなる山の巓いたゞきにもて行くべきよし仰せ给ふ。峰にてすべきやう教へさせたもふ(*ママ)。御文・不死の药の壶ならべて、火をつけてもやすべきよし仰せ给ふ。そのよし承りて、兵士つはものどもあまた具して山へ登りけるよりなん、その山をふしの山とは名づけゝる。その烟いまだ云の中へたち升るとぞいひ传へたる。

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